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和歌山簡易裁判所 昭和38年(ろ)120号 判決 1963年11月07日

被告人 高垣義一

明二九・三・二八生 無職

主文

被告人は無罪。

理由

公訴事実によれば被告人は頭根幹治と共謀の上所轄警察署長の許可を受けないで昭和三十八年六月八日午前十時頃和歌山市中徒町高垣宅前道路において壁土工事作業を行い道路を使用したものであると謂うにあり、証人頭根幹治同中尾正司の各証言並に取調べを了した道路使用許可申請書を綜合考察すれば右壁土工事は昭和三十八年四月十五日頃証人頭根幹治と被告人との間に締結された請負契約に基く工事作業であつて請負人頭根幹治は昭和三十八年六月六日夕刻右工事の為め該道路に土を運び込み翌七日朝から同月九日夕方まで作業を続け右請負契約とは別の契約に基く被告人隣家の高橋宅の工事も完成したものであるが右頭根は同月七日右道路の無許可使用につき警察官の取調べを受け同日被告人に対し該道路使用許可申請の手続を依頼し被告人は同日自己の名を以て右道路使用許可申請手続を了し同月十日右道路の使用を許可せられた事実を認めることができる。而して道路交通法第七十七条第一項第一号は道路において工事若しくは作業をしようとする者又は当該工事若しくは作業の請負人は当該行為に係る場所を管轄する警察署長の許可を受けなければならないと規定するが同条に所謂工事若しくは作業をしようとする者とは該工事若しくは作業の施主或は請負人と請負契約を締結した工事の注文者を指称するものではなく請負人以外の者で直接該工事若しくは作業をしようとする者と解するので被告人が請負人頭根の依頼で道路使用の許可申請を為すに当り自己の名を以て右申請手続を為したとしても之は右道路交通法規の解釈を誤つて為されたものであつて被告人が請負人頭根と共に自ら直接右工事作業をしようとする意図で為したものとは解し難いので被告人は右工事作業に係る道路使用許可申請義務者ではなく従つて右道路の無許可使用に付請負人頭根と共同関係に在るものでもない。

惟うに本罪は道路の使用に付道路使用許可申請義務者が許可を受けないことによつて右申請義務者に対して成立する犯罪であつて工事や作業或は道路に土を置くなどの道路使用行為は夫れ自体が直ちに犯罪行為と謂うことはできないので右道路の使用行為に付て協議共謀又は加功行為があつても之を以て直ちに犯罪の共謀或は加功と称することはできないものと解す。

被告人は昭和三十八年四月十五日頃請負人頭根幹治との請負契約により同人に対し公訴事実記載の工事作業を依頼し従つて被告人は右頭根が右工事作業をなすことは事前に了解していること勿論であるが之は犯罪性を具へない工事作業の依頼であつて之により被告人が右頭根と共謀して犯罪行為を為したものと謂うことはできない。

請負人頭根は同年六月六日の夕方右工事作業に使用する土を所轄警察署長の許可を受けないで該道路に運び込み右道路の使用を始めたもので道路使用許可申請義務者である右請負人頭根に対する道路無許可使用の罪は右道路使用開始の時を以て既に成立しているので同月七日正午頃に至り被告人が右頭根の道路使用について許可の申請をしてやると称し自己の名を以て之が申請を為し更に同月八日土の置いてある状況について被告人がその巾などを指揮した事実があつたとしても右頭根に対して既に成立している犯罪の成否に何等の影響を及ぼすものでもなく又土の状況についての指揮も請負工事の注文者として当然の措置にすぎないもので之を以て被告人が右頭根に対し既に成立している犯罪に加功したものと看ることはできないものと解す。

その他被告人が右頭根と共謀して公訴事実所載右頭根の犯罪行為を実行し又は之に加功したと認めるような証拠はない。

乃て刑事訴訟法第三百三十六条を適用し主文の如く判決する。

(裁判官 宇都宮綱久)

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